2018年は、世界的に大きな政治的・経済的な波乱のあった一年でした。アメリカではトランプ政権下での中間選挙が注目を集め、米中貿易摩擦が深刻化するなど、分断と緊張が国際社会を覆っていました。一方でテクノロジーの進化は加速し、SNSでの動画投稿文化が完全に定着。TikTokが世界的に急拡大し始めたのもこの頃です。また、#MeToo運動が世界中に波及し、エンターテインメント業界のみならず社会全体のジェンダー観や倫理観が大きく問い直されることとなった、記憶に残る激動の12ヶ月となりました。
音楽シーンにおいては、ストリーミングサービスの普及がランキングに決定的な影響を及ぼした象徴的な年と言えます。ヒップホップが完全にメインストリームの座を確立し、DrakeやPost Maloneといったアーティストが、アルバム単位ではなく「プレイリスト」を意識した楽曲制作でチャートを席巻しました。また、ジャンルの垣根を超えるコラボレーションが日常化し、ラテン音楽やEDMの要素がポップスと融合する傾向も顕著でした。CDの売上よりも、いかにデジタル環境でバイラルヒットを生み出すかが、スターへの登竜門となった時代です。
1位: GOD’S PLAN / Drake
- リリース年: 2018年
- 収録アルバム: 『Scorpion』
2018年の音楽シーンを語る上で避けて通れないのがDrakeの独壇場です。この楽曲はリリースされるやいなや圧倒的なストリーミング数を記録し、記録的なロングランヒットとなりました。楽曲の成功のみならず、ミュージックビデオでDrakeが撮影予算を街の人々に全て寄付する様子を描いた演出が大きな話題となり、インターネット時代における「共感」と「シェア」の重要性を証明しました。キャッチーでありながら、どこか内省的でメランコリックなDrake特有のフロウが、多くのリスナーの心に深く刻み込まれました。ヒップホップでありながら、全方位に愛されるポップソングとしての完成度は極めて高く、この曲が2018年の顔となったことに異論を挟む余地はありません。
2位: PERFECT / Ed Sheeran
- リリース年: 2017年
- 収録アルバム: 『÷』
前年末から引き続きチャートの上位をキープし、2018年の年間ランキングでも堂々の2位に輝いたのがEd Sheeranのバラードです。アコースティックギターを基調としたこの楽曲は、結婚式や卒業式などの人生の節目で愛されるアンセムとなりました。BeyoncéやAndrea Bocelliとのデュエット版をリリースするという戦略も見事に成功し、楽曲の寿命を大きく延ばしました。Ed Sheeranのソングライティングにおける天才性は、この普遍的なメロディラインに集約されています。時代がどれほどデジタル化し、ヒップホップがメインストリームを占拠しようとも、こうした王道のラブソングが人々の心を打つという事実は、音楽の本質的な力を再認識させるものでした。
3位: MEANT TO BE / Bebe Rexha & Florida Georgia Line
- リリース年: 2017年
- 収録アルバム: 『All Your Fault: Pt. 2』
ポップ界の歌姫Bebe Rexhaと、カントリーミュージック界の雄Florida Georgia Lineによる意外なコラボレーションは、2018年のチャートにおける最大のサプライズの一つでした。カントリーとポップのクロスオーバーが見事に成功し、ジャンルを問わず幅広い層のラジオリスナーを魅了しました。Bebe Rexhaの力強くも繊細なボーカルが、カントリー特有のストーリーテリングと完璧に融合しています。ポジティブな歌詞と軽快なリズムは、忙しない2018年の日常に安らぎを与えるような響きを持っていました。ジャンルの境界線が溶けゆく音楽シーンを象徴する一曲として、長く愛され続けるポテンシャルを持った名曲です。
4位: HAVANA / Camila Cabello Featuring Young Thug
- リリース年: 2017年
- 収録アルバム: 『Camila』
Fifth Harmonyからの脱退を経て、ソロアーティストとして覚醒したCamila Cabello。彼女のルーツであるラテンの要素を大胆に取り入れたこの曲は、世界中で爆発的なヒットを記録しました。中毒性の高いピアノのリフと、Young Thugのラップが見事に調和し、クラブからラジオまであらゆる場所で耳にするサウンドとなりました。特にミュージックビデオで見せた演技力やストーリー性も相まって、彼女を一躍トップスターへと押し上げました。単なるラテン・ポップにとどまらず、洗練されたR&Bのエッセンスを加味したプロダクションが非常に巧みであり、女性ソロアーティストとしての存在感を決定づけた一曲と言えます。
5位: ROCKSTAR / Post Malone Featuring 21 Savage
- リリース年: 2017年
- 収録アルバム: 『beerbongs & bentleys』
Post Maloneというアーティストが、もはや無視できない存在であることを世界に知らしめたのがこの楽曲です。ダークで重厚なトラップビートの上で、退廃的かつ豪華絢爛なライフスタイルを歌い上げるスタイルは、当時の若者たちの美学を完璧に体現していました。21 Savageの鋭いラップが絶妙なコントラストを生み出し、楽曲の攻撃性とキャッチーさのバランスを絶妙な位置に保っています。この時期のPost Maloneは、ヒップホップという枠組みを軽やかに飛び越え、ロックンロールスターのようなアイコンへと成長を遂げました。時代を象徴する「憂鬱」と「成功」のサウンドトラックとして、今聴いてもその鮮度は全く失われていません。
6位: PSYCHO / Post Malone Featuring Ty Dolla $ign
- リリース年: 2018年
- 収録アルバム: 『beerbongs & bentleys』
5位の「Rockstar」に続き、Post Maloneが2018年の年間チャートで再び上位にランクインした楽曲です。この曲では前作の荒々しさから一転し、よりメロウで浮遊感のあるプロダクションが特徴です。Ty Dolla $ignとの息の合った掛け合いは、心地よいグルーヴを生み出し、夜のドライブに最適なムードを演出しています。Post Maloneのメロディセンスが遺憾なく発揮されており、単なるラッパーではなく、優れたメロディメーカーであることを証明した一曲です。ストリーミング時代の申し子とも言える彼が、どのようにリスナーのプレイリストに入り込むかを熟知して作られた、非常に計算されたポップミュージックと言えるでしょう。
7位: I LIKE IT / Cardi B, Bad Bunny & J Balvin
- リリース年: 2018年
- 収録アルバム: 『Invasion of Privacy』
2018年、ヒップホップシーンで最も注目を集めた女性ラッパー、Cardi Bが提示した衝撃作です。ラテン・トラップの旗手であるBad BunnyとJ Balvinを迎え入れたこの曲は、まさに2018年の多国籍かつボーダレスな音楽シーンを体現するものでした。往年のサルサの名曲をサンプリングしつつも、現代的なビートで再構築する手腕は見事の一言。Cardi Bのキャラクターの強さと、ラテン勢の情熱的なバイブスがぶつかり合い、爆発的なエネルギーを生み出しています。ただの流行り歌ではなく、ヒップホップの歴史の中に確かな足跡を残した、真の意味でのカルチャーミックスを成功させた楽曲です。
8位: THE MIDDLE / Zedd, Maren Morris & Grey
- リリース年: 2018年
- 収録アルバム: (シングル)
EDM界のヒットメイカーZeddが、カントリー歌手のMaren Morrisをフィーチャーしたことで話題を呼んだ楽曲です。この曲の凄みは、ジャンルの融合が非常に自然でありながら、圧倒的なポップネスを放っている点にあります。ビルボードのチャートにおいて、カントリーとダンスミュージックがこれほどまでに美しく混ざり合うことは極めて稀です。Maren Morrisの力強いボーカルが、Zeddの作り出すクリスピーで透明感のあるシンセサウンドの上で輝きを増しています。日常的な悩みや葛藤を描いた歌詞も共感を呼び、朝のラジオから夜のパーティーまで、あらゆるシチュエーションを彩った2018年を代表するクロスオーバー・ヒットとなりました。
9位: IN MY FEELINGS / Drake
- リリース年: 2018年
- 収録アルバム: 『Scorpion』
2018年の夏を席巻したこの曲は、単なるヒットソングを超え、SNS上のバイラルチャレンジ「Kiki, do you love me?」を通じて社会現象となりました。Drakeは自身の楽曲がネット上でどのように消費され、拡散されるかを熟知しており、この曲のキャッチーなフックはまさにTikTok時代の到来を予感させるものでした。バウンスミュージックの要素を取り入れた軽快なビートは、聴く者を自然と踊らせる力を持っています。リリースから短い期間で爆発的な再生数を記録したこの曲は、ストリーミングプラットフォームが現代のヒットチャートをどのように操作し、決定づけているのかを象徴する、非常に現代的な成功例と言えるでしょう。
10位: GIRLS LIKE YOU / Maroon 5 Featuring Cardi B
- リリース年: 2018年
- 収録アルバム: 『Red Pill Blues』
2018年の最後に紹介するのは、ポップ・バンドの雄Maroon 5とCardi Bによるコラボレーションです。Adam Levineの甘いボーカルと、Cardi Bの攻撃的なラップが見事な対比を見せるこの曲は、リリース後すぐに定番曲としての地位を確立しました。ミュージックビデオには、多様な分野で活躍する女性たちが次々と登場し、現代社会における女性のエンパワーメントを視覚的に表現したことも大きな話題となりました。楽曲自体は非常にシンプルで親しみやすく、誰もが口ずさめるポップ・アンセムとして機能しています。時代が求めるテーマを楽曲に落とし込み、商業的成功とメッセージ性を両立させた、Maroon 5のキャリアにおける重要なマイルストーンです。
2018年のビルボードチャートを振り返ると、ストリーミングという新たな波が音楽業界のルールを完全に書き換えたことが明確に見て取れます。DrakeやPost Maloneがチャートを独占した事実は、ヒップホップがいよいよ完全にメインストリームの座に定着したことを意味していました。一方で、Ed Sheeranのような王道のポップスターも依然として根強い人気を誇り、ジャンル同士の境界線がかつてないほど曖昧になっていたことも特徴的です。ラテンやカントリーがポップスと混ざり合う光景は、もはや日常となりました。この年は、聴き手が音楽を所有する時代から、プレイリストという文脈の中で音楽と出会う時代への完全な移行点だったと言えるでしょう。音楽がより身近になり、世界中のトレンドが瞬時に反映されるようになったこの年のランキングは、現代の音楽文化を映し出す重要な鏡なのです。
