2016年は世界的に大きな変動があった年として記憶されています。政治的にはイギリスのEU離脱(ブレグジット)を問う国民投票や、アメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の勝利など、ポピュリズムの台頭と分断が社会のキーワードとなりました。一方で、ポケモンGOが世界的な社会現象となり、スマートフォンを通じた現実とデジタルの融合がかつてないスピードで加速したのもこの年です。経済的には新興国の成長鈍化への懸念がありつつも、ネットフリックス等のサブスクリプションサービスの普及が、人々のエンターテインメント体験のあり方を根本から変えようとしていました。

音楽シーンにおいても、2016年は「ストリーミング時代」の決定的な転換点となりました。CDの売上が減少を続ける一方で、SpotifyやApple Musicといったストリーミング再生数がチャートに大きく反映されるようになり、リスナーの嗜好がよりリアルタイムに可視化されるようになったのです。ジャンルとしては、ドレイクに代表されるトロピカル・ハウスやダンスホール・レゲエを取り入れたポップスが爆発的な人気を博しました。また、ザ・チェインスモーカーズがEDMを軸にしつつも、よりポップでキャッチーなエレクトロ・サウンドで頂点に立つなど、ダンスミュージックがメインストリームと完全に融合した黄金時代でもありました。

1位: LOVE YOURSELF / Justin Bieber

  • リリース年: 2015年
  • 収録アルバム: 『Purpose』

2015年にリリースされたアルバム『Purpose』からのシングルカットである本作は、2016年のビルボード年間チャートを制し、ジャスティン・ビーバーの完全なる復活と、アーティストとしての成熟を世界に見せつけました。エド・シーランとの共作であるこの楽曲は、派手なエレクトロニック・サウンドを削ぎ落とし、アコースティック・ギターとシンプルなヴォーカル・メロディだけで構築されています。かつてのティーン・アイドルとしてのイメージを完全に払拭し、洗練されたシンガー・ソングライターとしての側面を強調した戦略は、多くの大人層のファンをも魅了しました。失恋という普遍的なテーマを、毒気を含みつつもどこか穏やかな歌声で表現するスタイルは、現代のポップスが到達したシンプルイズベストの究極形とも言えます。ラジオフレンドリーでありながら、聴く者の耳に深く残るフックは、ストリーミング時代において何度でもリピートしたくなる中毒性を持っていました。

2位: SORRY / Justin Bieber

  • リリース年: 2015年
  • 収録アルバム: 『Purpose』

年間チャートの1位と2位を独占するという快挙を成し遂げたのは、再びジャスティン・ビーバーでした。『Purpose』からの一曲である本作は、プロデューサーにスクリレックスを迎えた、トロピカル・ハウスの要素を取り入れたアップテンポな楽曲です。ダンスホール・レゲエのビートが心地よく身体を揺らし、聴く者を自然と踊らせる力を持っています。タイトルにある通り「ごめんね」と繰り返す歌詞は、自己愛や人間関係の葛藤を背景にしながらも、メロディアスなシンセサイザーの音色によって、聴き終わった後にはどこか爽快感さえ感じさせます。当時のトレンドを完璧に押さえつつも、ジャスティンの瑞々しい歌声が楽曲にソウルフルな息吹を吹き込んでいました。この曲の成功により、彼は単なるポップアイコンから、時代のトレンドセッターへと完全に脱皮したと言えるでしょう。

3位: ONE DANCE / Drake Featuring WizKid & Kyla

  • リリース年: 2016年
  • 収録アルバム: 『Views』

ドレイクが世界的な支配力を確固たるものにした象徴的な一曲です。ナイジェリアのウィズキッドとイギリスのカイラを迎えた本作は、アフロビートとダンスホール、そしてUKガラージを絶妙にミックスした独自のサウンドを展開しています。それまでの重厚なヒップホップ・サウンドとは一線を画し、グローバルで軽やかなグルーヴを追求した点がこの曲の大きな勝因です。どこか憂いを帯びたドレイクのラップと、ミニマルなビートが繰り返される構成は、ストリーミング・プラットフォームで聴かれることを前提に設計されたかのように、聴き手を選ばない心地よさを提供しています。この楽曲の成功は、ヒップホップやR&Bが人種や国境を超えて「世界標準のポップス」として機能することを証明し、後の音楽トレンドにも多大な影響を与えました。

4位: WORK / Rihanna Featuring Drake

  • リリース年: 2016年
  • 収録アルバム: 『Anti』

待望のアルバム『Anti』からの先行シングルとしてリリースされた本作は、リアーナとドレイクという現代の音楽シーンにおける二大巨頭のコラボレーションとして大きな話題を呼びました。ダンスホール・レゲエのリズムを基調とし、リアーナのルーツであるカリブ海の香りを色濃く反映させたナンバーです。単調にも聞こえるほどミニマルなループ音がクセになり、そこにリアーナの気だるげで色気のあるヴォーカルが乗ることで、唯一無二のグルーヴが生まれています。決して作り込みすぎないラフな感触が、逆にリアーナというアーティストが持つ自然体のカリスマ性を際立たせていました。ダンスフロアで踊るためというよりは、日常のBGMとして生活に溶け込むようなこの楽曲のスタイルは、当時のリスナーにとって非常に新鮮でクールな響きを持っていました。

5位: STRESSED OUT / twenty one pilots

  • リリース年: 2015年
  • 収録アルバム: 『Blurryface』

オルタナティヴ・ロックの枠を大きく飛び越え、世界的なポップ・アンセムとなった楽曲です。大人になることへの不安や喪失感、子供時代への郷愁を歌った歌詞は、世界中の同世代のリスナーから圧倒的な共感を得ました。ヒップホップ、レゲエ、シンセ・ポップをごちゃ混ぜにしたようなジャンルレスな音楽性は、トゥエンティ・ワン・パイロッツ特有のものです。一見すると明るいポップスのように聞こえながらも、その裏側にある脆さや痛みを表現する姿勢は、多くの若者の心に深く刺さりました。特にストリーミング時代において、この「等身大の悩み」を共有する感覚は非常に強力な拡散力を持っていました。彼らがこの曲で体現したのは、音楽が単なる娯楽であるだけでなく、個人の抱える孤独を癒やすセラピーのような役割を果たし得るという事実です。

6位: PANDA / Desiigner

  • リリース年: 2015年
  • 収録アルバム: 『New English』

無名のラッパーであったデザイナーが、デビュー曲にして全米1位を獲得するというアメリカンドリームを体現した一曲です。強烈なベースラインと、一度聴いたら忘れられない「パンダ」というフックは、まさにバイラルヒットの教科書のような存在でした。カニエ・ウェストの楽曲にサンプリングされたことで一気に火がつき、サウンドクラウド世代の申し子として急激に頭角を現しました。技術的に洗練された楽曲とは言い難いものの、圧倒的なエネルギーとテンションで押すスタイルは、当時のティーンエイジャーの熱狂をダイレクトに反映しています。この曲の爆発的なヒットは、楽曲の質以上に、SNSを通じた「瞬間的なインパクト」がチャートを左右するようになった現代音楽業界の象徴的な事件として語り継がれています。

7位: HELLO / Adele

  • リリース年: 2015年
  • 収録アルバム: 『25』

アデルの圧倒的な歌唱力と表現力が、再び世界を感動の渦に巻き込みました。約4年ぶりのカムバックとなったこの曲は、ピアノの旋律一つから始まり、後半に向かって感情が雪崩のように押し寄せる、極めてドラマチックなバラードです。SNSやインターネットがどれだけ進化しても、純粋に「声の力」だけで世界を圧倒できることを証明しました。失恋という悲劇的なテーマを、彼女自身の豊かな人生経験と共に歌い上げることで、曲は普遍的な物語へと昇華されています。ストリーミングやダウンロードが主流となっても、フィジカル時代と変わらぬ「アルバムを待ちわびる熱狂」を現代に引き継いだ稀有なアーティストであることを、この一曲が証明しました。時代を超越した美しさを持つ、2010年代を代表する名曲と言えるでしょう。

8位: DON’T LET ME DOWN / The Chainsmokers Featuring Daya

  • リリース年: 2016年
  • 収録アルバム: 『Collage』

ザ・チェインスモーカーズがその地位を確立した重要な一年でした。Dayaをゲストに迎えた本作は、トラップ・ミュージックのビートを取り入れつつも、非常にポップでセンチメンタルなメロディラインを強調した、彼ららしいダンス・チューンです。EDMというジャンルが持っていた「フェス向けの大音量」というイメージを、日常の感情に寄り添うような「情緒的なポップス」へと転換した立役者です。切ない歌詞の内容と、ドロップ部分の力強いビートのコントラストが絶妙で、聴けば聴くほどハマる中毒性がありました。彼らが作り出したこのスタイルは、後に続く多くのダンス・プロデューサーたちに指針を与え、ダンス・ミュージックが「聴くもの」から「日常の感情を代弁するもの」へと変化する流れを決定づけました。

9位: CAN’T STOP THE FEELING! / Justin Timberlake

  • リリース年: 2016年
  • 収録アルバム: 『Trolls』

映画『トロールズ』のサウンドトラックから生まれた、聴く人すべてを幸福にするポジティブなダンス・ナンバーです。ジャスティン・ティンバーレイクのキャリアにおいて、最も純粋に楽しさを追求した楽曲であり、世代や国境を超えて愛される普遍性を持っています。ディスコ・ファンクの要素を取り入れ、現代の音作りで磨き上げたサウンドは、リリースと同時に世界中のラジオをジャックしました。複雑な感情や、内省的な歌詞が多かった2016年のヒットチャートにおいて、本作の持つ「ただ楽しいだけ」というシンプルさは、逆に新鮮な救いとして多くのリスナーに受け入れられました。彼の圧倒的なエンターテイナーとしてのスキルと、古き良きポップ・ミュージックへの敬愛が詰まった、心躍る名曲です。

10位: CLOSER / The Chainsmokers Featuring Halsey

  • リリース年: 2016年
  • 収録アルバム: 『Collage』

ザ・チェインスモーカーズが10位に2曲目のランクインを果たし、彼らの独壇場となった一年を象徴する楽曲です。ホールジーをフィーチャーした本作は、当時の誰もが一度は耳にしたであろう、2016年最大のアンセムです。ノスタルジーを誘う歌詞と、シンプルかつ印象的なシンセサイザーのフレーズは、ストリーミング・プラットフォームにおいて圧倒的な再生数を記録しました。ダンス・ミュージックでありながら、コーラスが完全にポップ・ソングとしての機能を果たしており、クラブよりも日常のドライブや通学・通勤の風景に溶け込む楽曲でした。この曲の巨大なヒットは、ダンス・ミュージックが完全にメインストリームのポップ・ミュージックと同一化したことを示す歴史的な瞬間であり、現在の音楽トレンドの礎となったと言えるでしょう。

2016年のチャートを振り返ると、ストリーミング・サービスが音楽消費の主流となり、かつてないスピードでトレンドが循環し始めた過渡期の熱量が伝わってきます。ジャスティン・ビーバーの独走から始まり、ドレイクやザ・チェインスモーカーズといった、時代を象徴するアーティストたちが新たなサウンドの定義を打ち立てました。また、リアーナやアデルのようなベテラン勢が、自身のルーツや表現を深めることで変わらぬ強さを証明した一方で、デザイナーのような新人がバイラルヒットで一夜にしてスターダムを駆け上がるという、SNS時代ならではの現象も同時に進行していました。この10曲は、ただのヒットソング集ではなく、デジタル化によって世界がフラットになり、音楽の楽しみ方が劇的に変化した「2016年」というエポックメイキングな一年を記録した貴重なアーカイブなのです。