2012年は、世界が大きな変化の渦中にあった年でした。アメリカではバラク・オバマ大統領がミット・ロムニーを破り再選を果たし、ロンドンオリンピックでは連日の熱戦が世界中を釘付けにしました。また、マヤ文明の暦に基づいた「2012年人類滅亡説」がインターネットを中心に大きな話題となり、社会不安と娯楽が奇妙に混ざり合う独特の空気が漂っていました。日本では東日本大震災からの復興に向けた歩みが続く中、東京スカイツリーが開業するなど、希望を見出そうとする動きも活発化していました。スマートフォンが本格的に普及し、誰もがSNSを通じて情報を共有する現代型のメディア環境が定着し始めた、時代の転換点とも言える年でした。

音楽シーンにおいても、デジタル化とSNSによる拡散力がチャートを支配し始めた決定的な年となりました。GotyeやCarly Rae Jepsenのような、インターネットを介して突如として世界的なスターダムに駆け上がるアーティストが登場し、従来のプロモーション手法の常識を覆しました。ジャンルとしては、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)がメインストリームを完全に席巻し、Calvin HarrisやDavid Guettaらが手掛けるトラックがポップスを塗り替えていく現象が加速。一方で、One Directionのようなボーイズグループが再興を見せ、若年層の熱狂的な支持を集めるなど、ダンスビートとキャッチーなメロディが共存する、非常にエネルギッシュでカラフルな時代背景が音楽に反映されていました。

1位: SOMEBODY THAT I USED TO KNOW / Gotye Featuring Kimbra

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『Making Mirrors』

ベルギー生まれオーストラリア育ちのマルチ・インストゥルメンタリスト、ゴティエによる本作は、2012年を象徴する圧倒的なアンセムとなりました。80年代のポップスを彷彿とさせる哀愁漂うメロディラインと、ミニマルなパーカッション、そしてキムブラの参加による男女の別れを描いた切ない物語が、リスナーの胸を強く打ちました。この曲の凄まじさは、YouTubeでのミュージックビデオの再生回数が爆発的に伸びたことにあります。飾り気のないシンプルな映像表現と、一度聴いたら忘れられない中毒性の高い旋律が、SNSを通じて世界中に拡散されました。グラミー賞でも最優秀レコード賞と最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞し、独立独歩のアーティストが世界を制するという、2010年代初頭ならではの痛快な成功事例となりました。

2位: CALL ME MAYBE / Carly Rae Jepsen

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『Kiss』

2012年の夏を語る上で、この曲を外すことは不可能です。ジャスティン・ビーバーがSNSで紹介したことがきっかけとなり、世界中でバイラルヒットを記録しました。ストリングスの軽快なイントロから始まり、サビで一気に感情が爆発するような展開は、まさに完璧なポップ・ソングの模範と言えます。誰しもが経験したことのある「一目惚れ」の甘酸っぱさを、素直かつストレートな歌詞で表現したことが、全世代の共感を呼びました。また、多くのセレブリティやスポーツ選手、ファンたちがこぞってこの曲に合わせてリップシンク動画を公開し、インターネット・ミームとしても歴史に名を刻みました。カーリーの持つ等身大のキュートさと、楽曲の持つ圧倒的なキャッチーさが融合し、その後のポップ界における「ガール・ポップ」の基準を書き換えた一曲です。

3位: WE ARE YOUNG / fun. Featuring Janelle Monae

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『Some Nights』

インディー・ロック出身のバンド、fun.がメインストリームに躍り出た記念碑的な楽曲です。壮大なオーケストラ風のサウンドに、スタジアム規模のコーラスが重なるこの曲は、若者特有の焦燥感と、「今夜くらいは自分らしく楽しもう」というポジティブなメッセージを詰め込んでいます。ボーカルのネイト・ルイスの、時にヒステリックなほど感情をむき出しにした歌唱が、聴く者の心を強く揺さぶりました。テレビドラマの挿入歌として使用されたことも追い風となり、アメリカ国内だけでなく世界中のパーティで歌われるアンセムへと成長。デジタル時代の「哀愁と高揚感」を体現したサウンドは、それまでのシンセ・ポップ一辺倒だったチャートに、バンド・サウンドの新たな可能性と、ロックの復権を強く印象付けました。

4位: PAYPHONE / Maroon 5 Featuring Wiz Khalifa

  • リリース年: 2012年
  • 収録アルバム: 『Overexposed』

アダム・レヴィーン率いるマルーン5が、よりポップでダンス性の高いサウンドへと舵を切った時期の重要曲です。切ないピアノのメロディで始まりながらも、一気に現代的なシンセ・ビートへと展開する構成は、彼らの柔軟な音楽性を証明しました。ウィズ・カリファによるラップパートをフィーチャーすることで、R&Bやヒップホップとのクロスオーバーを完璧に遂行し、幅広いリスナー層を獲得することに成功しています。タイトルにある「公衆電話」という、デジタル時代には少しレトロに感じるモチーフが、かえって失恋の孤独感を際立たせる効果を生んでいます。ヒットメーカーとしての手腕を遺憾なく発揮し、洗練されたプロダクションと大衆性が絶妙なバランスで同居した、2012年を代表するアーバン・ポップの金字塔です。

5位: LIGHTS / Ellie Goulding

  • リリース年: 2010年
  • 収録アルバム: 『Lights』

エリー・ゴールディングの最大のヒット曲であり、彼女を世界的スターに押し上げた一曲です。元々は2010年のリリースでしたが、2012年になってからアメリカで急速に人気に火がつき、ロングセラーを記録しました。幽玄なエレクトロ・サウンドと、エリー独特のエアリーで透き通るようなボーカルが重なり合う瞬間は、まるで夜の街に溶け込んでいくような浮遊感をもたらします。EDMの力強さとインディー・ポップの繊細さが完璧な形で調和しており、その幻想的な世界観は、当時のクラブ・シーンのみならずラジオ・リスナーを夢中にさせました。彼女が持つアーティストとしての独自性と、大衆に愛されるポップ・センスが見事に噛み合った瞬間であり、現在のポップ・ミュージックにおけるエレクトロ・バラードの先駆けと言える存在です。

6位: GLAD YOU CAME / The Wanted

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『The Wanted』

UK出身のボーイズグループ、ザ・ウォンテッドがアメリカ市場を攻略した、エネルギッシュなダンス・アンセムです。当時のUKポップ・シーンにおける、EDM要素を取り入れたアップテンポなトレンドを象徴するような楽曲で、高揚感に満ちたサビのフレーズは、ダンスフロアを熱狂の渦に巻き込みました。彼らの持つ「不良っぽさ」や「遊び慣れた雰囲気」が、当時の爽やかなボーイズグループ像とは一線を画しており、その無骨ながらもキャッチーな魅力が支持されました。「あなたが来てくれてよかった」という直球のタイトルと歌詞が、若者の日常の喜びを代弁していたのです。この楽曲のヒットによって、UKのボーイズグループが世界的なトレンドの中心へ躍り出る流れが確固たるものとなり、当時の華やかなポップ・シーンを象徴する一曲として記憶されています。

7位: STRONGER (WHAT DOESN’T KILL YOU) / Kelly Clarkson

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『Stronger』

『アメリカン・アイドル』出身のディーバ、ケリー・クラークソンによる、人生の困難を乗り越える力を与えてくれるパワフルな応援歌です。ニーチェの言葉を引用したような「自分を殺さないものは、自分を強くする」というメッセージを、彼女の圧倒的な歌唱力で歌い上げることで、聴く人に勇気を与え続けています。アップテンポなビートと突き抜けるようなボーカルの相性は抜群で、失恋や失敗に打ちひしがれた時、前を向くためのエネルギーを授けてくれるような強さを持っています。彼女のキャリアの中でも、最も多くのリスナーの心に寄り添い、シンガロングを誘うアンセムとして愛されています。時代を超えて歌い継がれるような普遍的なメロディと、ケリーというアーティストの人間性が完璧に一致した名曲と言えるでしょう。

8位: WE FOUND LOVE / Rihanna Featuring Calvin Harris

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『Talk That Talk』

リアーナとカルヴィン・ハリスという、当時のダンス・ポップ界における二大巨頭がコラボレーションした伝説的な楽曲です。重厚なシンセベースが鳴り響くイントロから、一気に会場が熱気に包まれるようなカタルシスが特徴的。恋愛の狂おしいほどの情熱と、そこに伴う中毒性や破壊的な側面を、疾走感のあるサウンドで見事に描き出しています。この曲は、EDMがポップ・ミュージックの主役として君臨した2012年を象徴するサウンドであり、世界中のクラブやフェスで最もプレイされた曲の一つです。リアーナの少し気だるげでアンニュイな歌声が、カルヴィン・ハリスの構築する完璧なエレクトロ・サウンドに乗り、よりセクシーで危うい輝きを放っていました。

9位: STARSHIPS / Nicki Minaj

  • リリース年: 2012年
  • 収録アルバム: 『Pink Friday: Roman Reloaded』

ニッキー・ミナージュがヒップホップの枠を飛び越え、ダンス・ポップのアイコンとして完成したことを知らしめた楽曲です。レッドワンによるプロデュースで、ユーロダンスの影響を色濃く反映させたこの曲は、とにかく明るく開放的で、聴くだけで気分が高揚するパワーを持っています。ニッキー特有の早口ラップと、突き抜けるような高音域の歌唱が交互に現れる構成は、彼女の多才さを物語っています。「スターシップに乗ってどこか遠くへ行こう」というリリックも、当時の閉塞感を吹き飛ばすような高揚感をリスナーに提供しました。ヒップホップをベースにしつつも、純粋なエンターテイメントとしてのポップ・ミュージックを追求したニッキーの姿勢が、世界的な大ヒットという形で結実した瞬間でした。

10位: WHAT MAKES YOU BEAUTIFUL / One Direction

  • リリース年: 2011年
  • 収録アルバム: 『Up All Night』

世界的なボーイズグループ、ワン・ダイレクションのデビュー曲であり、彼らの歴史がここから始まりました。爽快なギターのリフと、「君は自分の美しさに気づいていない」という、世界中の少女の心を溶かすようなスイートな歌詞が、瞬く間に社会現象となりました。メンバーそれぞれの個性が光る歌い回しと、全員で合唱するサビの爆発力は、かつてのビートルズやバックストリート・ボーイズを彷彿とさせる、新しい時代の熱狂を予感させました。この曲が持つ純粋な多幸感は、重苦しいニュースも多かった2012年の世界に、一筋の清涼感をもたらしました。SNS世代のスターとして、彼らがここからどれほどの飛躍を遂げるのか、その序章に過ぎなかったとはいえ、この時点で既にポップスターとしての完成度は群を抜いていました。

こうして振り返ってみると、2012年はインターネットを通じた「バイラル現象」と、EDMを中心とした「ダンス・サウンド」の融合が完全に結実した年であったことが分かります。GotyeからOne Directionまで、チャートを賑わせたアーティストたちは、テレビやラジオだけでなく、SNSという新しい広場を最大限に活用し、自らの楽曲をリスナーの生活の一部へと浸透させました。失恋や孤独を歌う一方で、ダンスビートでそれを昇華させるような、ある種の「強さ」を求める空気が共有されていたのも特徴的です。この年に生まれた楽曲の数々は、単なる一過性のヒットに留まらず、現在でも色褪せないポップ・クラシックとして私たちのプレイリストの中で輝き続けています。