Maro「saudade, saudade」― 教会に響く、最強の歌声

Spotifyで音楽を聴くようになって久しいけど、これは急にどこからかオートプレイで流れてきて知ったアーティスト。Maro(マロ)。気づいたら何度もリピートしていた。

調べてみたら、本名は Mariana Secca、1994年リスボン生まれのポルトガルのシンガーソングライター。4歳からクラシックピアノ、12歳からは独学でギターを始めて、それが今の作曲の軸になっているらしい。そして確かにバークリー出身——ボストンの Berklee College of Music に奨学金で入って、卒業後はロサンゼルスへ。Jacob Collier や Quincy Jones にも見出されたという経歴の持ち主だった。「saudade, saudade」は2022年のユーロビジョンにポルトガル代表として出した曲で、最終結果は9位。

そもそも saudade とは

saudade はポルトガル語で、英語にも日本語にもうまく訳せない言葉。失ってしまったものへの、どこか甘く切ない郷愁・憧憬みたいな感情を指す。この曲は Maro が亡くなった祖父に捧げたもので、彼女は祖父を「親友」と呼んでいる。アメリカ時代の親友 John Blanda とブラジル旅行中に書いた曲で、もとは Blanda のギターのリフから生まれたそうだ。歌詞は英語とポルトガル語が混ざっていて、それがまた独特の浮遊感を出している。

この「saudade, saudade」、実はバージョン違いがやたら多い。同名のリリースに何種類も入っていて、聴き比べるのがそのまま楽しい。

Live in Avinyó ― これは反則

一番やられたのがこの Live in Avinyó。教会のような建物でギターと歌声に天然のリバーブがかかっていて、ただただ神々しい。後で知ったけど、本当に教会だった(アヴィニョーのサンタ・エウジェニア・デ・レラット教会での収録)。あの響きは空間ごと録っているわけで、どうりで。

というか、Maro の歌声が最強すぎる。リバーブが乗ることで声の輪郭がほどけて、空間に溶けていく感じがたまらない。

piano バージョンの美しいリフレイン

piano のバージョンもいいんだよな。これは「saudade, saudade (Live in Studio)」というタイトルで出ている、ピアノ主体のテイク。聴いていると、Penguin Cafe Orchestra の創設者 Simon Jeffes のソロ・ピアノ・アルバム『Piano Music』を思い出す。あの、同じフレーズが静かに繰り返されていくリフレインの美しさ。

slow バージョンと、BPMという魔法

あとは slow バージョン。BPMを落とすだけで、同じ曲がこんなに別物になるのかと毎回驚く。yung kai の「blue」にも slowed があったし、最近やたらと見かける。

後で知ったんだけど、これは「Slowed + Reverb」とか「Sped Up(倍速)」と呼ばれる、TikTokやInstagram発の加工文化らしい。曲をいじって楽しむスタイルが、若い世代にはもうすっかり定着しているんだとか。……まあ、自分はTikTokもインスタもやらないので、正直「知らんがな」という感じなんだけど。

ただ、その外側にいる人間として曲だけ聴くと、slow の曲調は素直に好きだ。一方で、声まで加工して変えてしまうのはちょっと微妙。Maro の歌声そのものがいいんだから、そこは触らないでほしい。流行っているかどうかじゃなく、耳がそう言っている。


新作はもう出ないアーティストばかり聴いてきた中で、2026年に出会って一番リピートしたのが、現役で歌い続けている Maro だったのは、自分でもちょっと意外だった。