2021年は、世界中が新型コロナウイルス感染症の影響下にあり、日本でも度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されるなど、閉塞感が漂う一年となりました。東京オリンピック・パラリンピックが1年遅れで開催されたものの、無観客での実施を余儀なくされるなど、社会全体が「新しい生活様式」への適応を強く求められた期間です。一方で、デジタル化が加速し、リモートワークやオンラインイベントが一般化したことで、人々のエンターテインメントへのアクセス方法も劇的に変化しました。

音楽シーンにおいては、CDセールスからストリーミング再生数へと評価軸が完全に移行した決定的な年となりました。特に、TikTokを筆頭とするショート動画プラットフォームが楽曲のバイラルヒットを生む主要な起点となり、アーティストのプロモーション戦略も大きく変化しました。顔出しを控えた「ネット発アーティスト」がチャートの上位を占拠する光景が当たり前となり、リスナーはジャンルにとらわれず、自身の感性に響く楽曲をプレイリスト単位で消費するようになっています。この年は、まさに日本のポップミュージックがデジタルネイティブな層を中心に、新たな黄金期を迎えた象徴的な12ヶ月でした。

1位: ドライフラワー / 優里

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『壱』
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優里の『ドライフラワー』は、まさに2021年を象徴する圧倒的なロングヒット曲です。前年にリリースされた楽曲ですが、切ないメロディと共感を呼ぶ歌詞が、サブスクリプションサービスを通じて爆発的な広がりを見せました。YouTubeの「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスが大きな話題となり、歌声の持つ力強さと表現力が幅広い層に届いたことも勝因の一つです。SNSでのカバー動画や弾き語り投稿が絶え間なく行われたことで、楽曲自体が生命力を持ち続け、ランキングの頂点へと上り詰めました。失恋の痛みを繊細に描いた世界観は、多くのリスナーにとっての「自分たちの物語」となり、ストリーミング時代における新たなスタンダード・ナンバーとして確立されました。この楽曲の成功は、無名のシンガーソングライターがSNSを駆使することで、瞬く間に国民的ヒットを飛ばせるという、現代音楽シーンの構造的な転換を証明した事例と言えるでしょう。

2位: Dynamite / BTS

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『BTS, THE BEST』
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前年に引き続きランクインを果たしたBTSの『Dynamite』は、もはや説明不要のグローバル・アンセムです。コロナ禍という困難な状況下で、「人々に元気を届けたい」という彼らの願いが込められたこの楽曲は、ポジティブなエネルギーを放ち続け、異例のロングヒットを記録しました。ストリーミング再生数はリリースから1年経過しても全く衰えることがなく、むしろ日本国内でも幅広い世代に浸透しました。洗練されたポップサウンドとダンスパフォーマンスが、テレビ番組やCMを通じて連日届けられたことで、特定のファン層を超えて広く愛される楽曲となりました。この楽曲の驚異的な持続力は、洋楽の枠組みを超えて日本のJ-POPチャートのあり方そのものを変革しました。

3位: 夜に駆ける / YOASOBI

  • リリース年: 2019年
  • 収録アルバム: 『THE BOOK』
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YOASOBIのデビュー曲である『夜に駆ける』は、前年に引き続き驚異的なロングヒットを記録し続けました。リリースから時間が経過しているにもかかわらず、チャートの上位に留まり続けた背景には、彼らが構築した「小説を音楽にする」という独自の世界観が、ストリーミング環境と極めて高い親和性を持っていたことがあります。疾走感あふれるサウンドとikuraの透明感あるボーカル、そしてボカロ文化にルーツを持つキャッチーなメロディラインは、一度聴いたら忘れられない中毒性を持ち合わせ、プレイリストの上位に常駐する定番曲となりました。若年層だけでなく、幅広い世代のリスナーを獲得し、ストリーミング時代の音楽消費のあり方を象徴する楽曲としての地位を盤石なものにしました。

4位: 炎 / LiSA

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『LEO-NiNE』
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前年に引き続きランクインしたLiSAの『炎』は、映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌として社会現象を巻き起こしました。映画の大ヒットに伴い、楽曲の持つ感動的なメッセージと圧倒的な歌唱力は多くの人の心を打ち、映画公開から時間が経過した後もその人気が衰えることはありませんでした。特にストリーミング配信での再生数が非常に高く、カラオケチャートでも常に上位をキープするなど、リスナーが自ら進んで聴き続ける「選ばれし名曲」として定着しました。LiSAのパワフルながらも叙情的な歌唱が、この名作のエンディングを完璧に彩り、映画を観た人々の感情を補完し続けることで、ロングヒットの連鎖を生み出し続けました。

5位: 怪物 / YOASOBI

  • リリース年: 2021年
  • 収録アルバム: 『THE BOOK 2』
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YOASOBIの『怪物』は、アニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマとして起用され、リリース直後から爆発的なヒットを記録しました。YOASOBIの持つキャッチーさと、ダークで疾走感のある楽曲展開が完璧に融合しており、原作の世界観を見事に描き出しています。この楽曲は、彼らのヒットの方程式である「物語との連動」を高いレベルで達成し、ストリーミング再生数で圧倒的な数字を叩き出しました。特にデジタル環境に強い彼らの楽曲は、SNSでの拡散や動画投稿サイトでの二次創作が活発に行われることで、若年層を中心に日常的に聴かれる曲として浸透しました。YOASOBIというユニットが、単なる一発屋ではなく、継続的にヒットを生み出すアーティストであることを確固たるものにした楽曲です。

6位: Butter / BTS

  • リリース年: 2021年
  • 収録アルバム: 『Butter (CD)』
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2021年にリリースされたBTSの『Butter』は、彼らの世界的な快進撃をさらに加速させた一曲です。前年の『Dynamite』に続く、ダンスポップの真骨頂とも言えるこの楽曲は、リリースと同時に世界中でチャートを席巻し、日本国内でもストリーミングランキングのトップを独走しました。洗練されたシンセサイザーのサウンドと、メンバーの個性が光るボーカルワークが絶妙に調和しており、聴くだけで気分が高揚するサマーアンセムとして機能しました。また、TikTokなどのSNSではこの楽曲を使ったダンスチャレンジがトレンドとなり、能動的な拡散が楽曲の人気を底上げしました。世界的アイコンとなったBTSが、どのようにして日本のヒットチャートを攻略し続けるのか、その答えが詰まった楽曲です。

7位: うっせぇわ / Ado

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『狂言』
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Adoのメジャーデビュー曲である『うっせぇわ』は、2021年の社会現象と言っても過言ではない衝撃を与えました。ボカロP・syudouが手掛けた攻撃的な歌詞と、Adoの圧倒的な歌唱力が重なり合い、当時の世相ともリンクして若者を中心に強烈な共感と支持を得ました。ストリーミングやYouTubeでの動画再生数が爆発的に伸び、顔出しをしないアーティストというスタイルが、逆にリスナーの想像力を掻き立てました。既存のポップスにはない毒気とパワーは、音楽番組やラジオでも異彩を放ち、一気に彼女をスターダムへと押し上げました。この楽曲の成功は、インターネット発のカルチャーが、既存の音楽業界のルールを塗り替えるパワーを持っていることを世に知らしめた記念碑的な一曲です。

8位: 群青 / YOASOBI

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『THE BOOK』
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YOASOBIの『群青』は、2020年のリリースでありながら、2021年に入ってさらに順位を上げたロングヒット曲です。漫画『ブルーピリオド』にインスパイアされたこの楽曲は、「好きなものと向き合う苦悩と歓喜」という普遍的なテーマを扱っており、多くの学生やクリエイターの背中を押しました。特に合唱パートの力強さと、自分自身を鼓舞する歌詞が、ストリーミングを通じてじわじわと浸透していきました。TikTokではこの楽曲を使用した投稿が急増し、楽曲が持つ前向きなエネルギーが、コロナ禍での不安を抱える人々に癒やしと勇気を与え続けました。YOASOBIの楽曲が持つ「物語への共感」の力が、時間をかけてチャートの頂点付近まで押し上げた好例です。

9位: 虹 / 菅田将暉

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『COLLAGE』
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菅田将暉の『虹』は、前年に引き続きロングヒットを記録しました。映画『STAND BY ME ドラえもん 2』の主題歌として制作されたこの楽曲は、結婚式や卒業式など、人生の門出を祝う場での定番ソングとして深く定着しました。石崎ひゅーいが手掛けた温かみのあるメロディと、菅田将暉の不器用ながらも真摯な歌声が、幅広い世代のリスナーの心に寄り添いました。ストリーミングでの継続的な再生に加え、家族や友人への想いを乗せる楽曲として、人から人へと口コミやプレイリストを通じて共有され続けました。流行の激しいチャートの中で、この曲が長く愛され続けた理由は、時代を超えて響く普遍的な家族愛や絆というテーマを丁寧に描き出した点にあります。

10位: 廻廻奇譚 / Eve

  • リリース年: 2020年
  • 収録アルバム: 『廻廻奇譚 / 青のすみか』
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前年に引き続きランクインしたEveの『廻廻奇譚』は、アニメ『呪術廻戦』の爆発的なヒットと連動して、驚異的な聴取数を維持しました。ダークで複雑な構成を持つ楽曲でありながら、非常にキャッチーなサビを持つこの曲は、アニメファンだけでなく、ストリーミング環境で「かっこいい音楽」を探しているリスナーを虜にしました。前年から継続して再生され続けた要因は、アニメの世界観と楽曲が一体化しており、何度も繰り返し聴きたくなる中毒性の高さにあります。ネット発のアーティストが、アニメタイアップを通じてメインストリームへ進出するという、2020年代の音楽シーンにおける成功モデルを体現する楽曲として、多くのユーザーのプレイリストに長期間残り続けました。

2021年のチャートを振り返ると、ストリーミングというプラットフォームがいかに音楽の寿命を延ばし、ヒットの形を変えたかが如実に見て取れます。優里やYOASOBI、Adoといったネット発のアーティストが中心となり、BTSというグローバルな存在がそこに交わることで、日本の音楽チャートはかつてない多様性と活気に満ち溢れていました。前年からのロングヒット曲が上位を占める傾向も顕著で、これはリスナーが流行り廃りではなく、自分にとって本当に必要な楽曲を「聴き続ける」というスタイルへ変化したことを意味しています。この一年のチャートは、まさにJ-POPがデジタルネイティブな音楽へと完全に脱皮した、歴史的な転換点であったと言えるでしょう。